ナイン・マイルは遠すぎる

THE NINE MILE WALK

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Number史観と勝又史観 

勝又清和『最新戦法の話』を読みました。
野球のシーズンが終わってからは特に将棋の本を読むことが増えたのですが、その中でも特に楽しめました。
筆者が「将棋世界」誌に連載している記事が大変面白いのでこれも期待していたのですが、それを裏切らない完成度。同連載のファンの方なら必見でしょう。

勝又は「鑑賞の手引き」と言っていますが、この本近代よく指されるようになった戦法の思想を紹介するものです。「こういういいことがあるからみんな指してて、こういうことをしたいんだよ」ということを教えてくれるわけですね。
棋は対話なり、という言葉がありますが、将棋の指し手はひとつひとつに思想があり、ドラマがある。それを著者は翻訳してくれています。

ただ翻訳されていてもそこは将棋の本、予備知識がある程度――私でも楽しめたのでほんとに少しばかりでいいのでしょうが――あったほうが楽しめます。
木村定跡に代表される角換わり相腰掛銀定跡では先手に7筋の歩を突き捨ててから右辺で得た歩を桂頭に打ち込む筋があるが、後手一手損角換わりでは飛車先の歩を8四で止めているため、8五桂と跳ねられる……といった話を聞いて「なるほど」まで行かずとも「ほー」ぐらいの感じならば楽しめるのでは。

そして本書の最大の魅力は、定跡の解説にとどまらずその裏にあるドラマにまで触れていること。
将棋の指し手を通して人間ドラマを語る本としては『対局日誌』という大著がありますが、それと本書とは趣が異なります。
『対局日誌』は指し手を通してその棋士の人生観、人間のあり方のようなものを語ろうとする……私はこれを密かにNumber史観と呼んでいるのですが、そんなところがあります。その棋士の棋譜を見て、その棋士の将来を占うような見方です。
一方、『最新戦法の話』におけるドラマの主役は「人間」でなく「棋士」なのです。指し手を通して人間のあり方を見るのでなく、棋士としてのあり方を見る。人生観を見るのでなく、将棋に対する考え方を見る。棋譜を見て、その戦法や将棋の将来を占う。この見方が、本書を名著たらしめていると思うのです。

この本の中で、勝又の文章は新手、新戦法への好奇心に溢れています。そしてそれを生み出す棋士と彼らの挑戦に対するリスペクトに溢れています。この本の中に棋士や指し手に対する批判的なコメントは一切出てきません。
そして勝又も一人のプロ棋士、将棋に対する理解という点では申し分ありません。
だからこそ、彼の取材に対してプロ棋士達も思い切り語ってくれるのでしょう。この本で紹介されている戦法には、すべてその創始者や開拓者への取材が添えられています。

プレーから人間性を語ろうとする飛躍をせず、プレーからそのゲームに対する考え方を読み解く。
プレーとそれを行うプレーヤーを最大限にリスペクトし、理解する。
そして入念な取材と豊富な資料を元に、ファンに分かる言葉へと翻訳する。

この「勝又史観」は、将棋のみならずあらゆるプロプレーヤーのフィールドを紹介する上で模範となる姿勢なのではないでしょうか。


(※Numberが悪いと言ってるんじゃないですヨ。)
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